【読書メモ】はじめてのUXリサーチ ―ユーザーとともに価値あるサービスを作り続けるために
目次・概要
- Chapter1 UXリサーチの捉え方
- Chapter2 UXリサーチの始め方
- Chapter3 UXリサーチの組み立て方
- Chapter4 UXリサーチの手法を知る
- Chapter5 UXリサーチを一緒にやる仲間の増やし方
- Chapter6 UXリサーチを活かす仕組みの作り方
- Chapter7 UXリサーチのケーススタディ
- Chapter8 UXリサーチの実践知の共有
本書は、メルペイ にてUXサービス開発に携わっている方(松薗さん、草野さん)の著書。
- 1人でも実践を小さく始めて続けられるように構成していること
- UXリサーチのリアルな実践事例を扱っていること
を特徴として掲げており、UXリサーチに関する理論的な背景や詳細な手法については、専門家向けの他書籍に譲っています。
「サービス作りのためにUXリサーチを実践し始め続けていきたい」という、わりとライトな層向けの書籍と捉えることができそうです。
ポイント
Chapter1 UXリサーチの捉え方
UXリサーチとは
この書籍では、「UXリサーチ」を
「様々な場面で起きる人の知覚や反応(UX)について調べて明らかにすること」
と定めている。
UXリサーチの対象は、UIを使っているときに限らず、人の生活そのもの、既存の他サービスなど多岐にわたる。
UXリサーチの必要性が高まっている背景
- サービスが増え、人が一生かけても使い切れないサービス数の存在
- 他と比べて使いやすいことや、使っているときの体験の品質が高いことが求められる
- 市場の変化が年々激しくなっている(コロナの影響も然り)
- ユーザーの多様性
体験の品質が重視され、市場の変化が激しく、多様性が高い状況では、どういう人がどういう事情で使っているかをサービス提供者が推測する難易度が上がっている
背景からUXリサーチの重要性が増している。
UXリサーチのメリットを捉える
- リリース前から学びが増やせる
- データを解釈する精度を高められる
- 組織づくりに使える
- ユーザーが実際にサービスを使っている様子を目の当たりにすることは、組織内の関係者にとって大きな刺激に
UXリサーチを手段として捉える
UXリサーチをして明らかになったことがきちんと組織の関係者に伝わり、議論や意思決定に活用されることが重要です。
UXリサーチの分け方を捉える
- 探索/検証のリサーチ
- 探索のリサーチの手法としては「デプスインタビュー」
- 期待できる結果は、今まで知らなかった新しい洞察が得られること
- 検証のリサーチの手法としては「コンセプトテスト」や「ユーザビリティテスト」
- 期待できる結果は、自分たちが持っている仮説が支持されるか否かがわかること
- 探索のリサーチの手法としては「デプスインタビュー」
- 質的/量的リサーチ
- 質的データは、ユーザーは実際にどのような行動をしているのか、そのときにユーザーはどのようなことを考えているのかを調べることに向く
- 量的データは、どこで、何が、どの量で起こっているかを調べることに向いている
- UXの要素ごとのリサーチ
- ギャレットのユーザーエクスペリエンスの要素 のレイヤーで「どの段階の要素を調べて明らかにすることがサービス作りに役立つのか」を考える
Chapter2 UXリサーチの始め方
始めること自体が目的ではない
UXリサーチはあくまで目的のための手段のひとつであることを見失わないようにしましょう。
「最近入ったばかりのメンバーもいるし、みんなでユーザーのイメージをあわせてコミュニケーションを円滑にするために実際にユーザーの声を聞く機会を作りたい」といった具合に状況に合わせて目的と手段を考えるのがよい。
まずは小さく始めてみよう
「ユーザーのことを理解したい」という気持ちを忘れずに、相手に興味と尊敬を持って接することを心がけていれば十分です。
- 高い専門性がなくても始められる
- 予算がなくても始められる
- 特別な設備や機材がなくても始められる
- 時間がなくても始められる
- 上司や同僚の理解がなくても始められる
「上司や同僚の理解がなくても始められる」については「UXリサーチ」という言葉を使わずに説明することがおすすめの手段。「デザインのヒントを得たい」などの目的とセットで、「その手段としてユーザーを理解したいので、何人かにお話を聞いてくる時間を業務中に取ります」などすると上司としても賛同しやすいのではないか。
何から始めるか
- 探索のリサーチから始める
- サービスの課題がいまいちわかっていなかったり、課題は把握しているものの優先順位がつけられていない状態
- 検証のリサーチから始める
- すでに課題が明らかで解決方法のアイデアもある状況
- すでにあるデータの活用から始める
- 使えるデータがすでにあるなら、まずはそれを活用するのもひとつの手
より良いUXリサーチを目指す工夫
- ウォークスルーをやってみる(調査する前に模擬的にやってみる)
- 自分1人で振り返りする
- 他の人にフィードバックを依頼する
- 他の人のスタイルから学ぶ
「実はもう始めていたUXリサーチ」の例のように、普段からユーザー目線で考えることを1歩進めることで、「UXリサーチ」になり得る or つながることになる、というのは良い視点だと感じた。
Chapter3 UXリサーチの組み立て方
UXリサーチで歩む7つのステップ
- 状況理解
- 問い立案
- 手順設計
- 調査準備
- 調査実施
- データ分析
- 結果活用
全体を「UXリサーチの運用」と捉える。
組み立て方の概要
大きく2つのパートに分けて考える。
1.状況理解
2.問い立案 3.手順設計
なぜやるのか、何を明らかにするのか、を明確にするパート。
状況を理解することで、自分たちが何が分かっていないのか、何を調べて明らかにするべきなのか考えやすくなる。
4.調査準備
5.調査実施
6.データ分析
何をどのように明らかにするのかを決めるパート。
状況理解
どのような背景でこの事業がはじまっているか、リソース(ヒト・モノ・カネ)をどのくらい活用できるか、権限はどの程度持っているか or 必要か、等を状況理解で行う。
問い立案
「状況理解」で把握した内容を加味して身の丈にあった「問い」を立てて関係者と合意する。
また身の丈に合わせるために「明らかにしないこと」も明確にしておく。
手順設計
- 調査対象を決める
- 調査・分析手法を具体化する
- スケジュールを決める
- 調査の実施手順を具体化する
また、調査結果がどのようにプロジェクトで活用されていくのかを明確にイメージすること、を考えるのが効果的。
調査準備
- 調査の実施手順を具体化する
- 協力者を集める準備を進める
Chapter4 UXリサーチの手法を知る
だいたい以前読んだユーザビリティエンジニアリング(第2版)と同じ内容の掲載。
この書籍の目的に書かれている通り、手法を細かく記しているわけではないので、ユーザビリティエンジニアリングの方が詳しい。
Chapter5 UXリサーチを一緒にやる仲間の増やし方
段階に応じた仲間の増やし方
- まずは一度引き込む
- 継続的な関係を構築する
- より広く・多くの人に認知してもらう
- UXリサーチを文化にする
ますは一度引き込んでみよう
- UXリサーチという単語を使わず、相手の視点から説明する
- 小さく実績を作って共有しながらおすすめする
- キックオフとラップアップで関わりやすい雰囲気をつくる
なぜUXリサーチという手段を用いると良いのかを引き込みたい相手の視点から語る とよい。
関係者が「目的を達成できそうな手段だから使ってみたい」と思われればよい。
継続的な関係を構築しよう
- UXリサーチが必要な状況を察知できるようにする
- UXリサーチに関する情報を蓄積して参照しやすくする
より広く・多くの人を引き込もう
- 組織の中で情報発信する
- 外部に情報発信して、組織の中に伝搬させる
- 主体的にUXリサーチを継続できる人を増やす
主体的に継続してくれる仲間が増えることは、長い目で見れば組織でUXリサーチを活用できる機会が広がる。
UXリサーチを文化にしよう
UXリサーチを活用して、ユーザーとともに価値のあるサービスを作っていく文化を根付かせることを考える。
- UXリサーチを続けやすい仕組みの整備
- 定期的な勉強会や相談会の開催
- UXリサーチャーという役割の定義
- 専任のUXリサーチャーの採用や育成
- UXリサーチチームの組織化
このあたり難しいなあと感じます。
案件でなかなかUXリサーチ何かしらやってます、という話はそこまで多く聞かないので、それこそこの本で書かれているようにスモールスタートでやっていくことが必要なのかなと思いました。
Chapter6 UXリサーチを活かす仕組みの作り方
ResearchOpsとは
UXリサーチの運用を単に効率化するだけでなく、標準化して品質を保つことや仕組み化していくこと。
ResearchOps Community というコミュニティもある。
ResearchOpsには6つの要素がある。
- リクルーティングの効率化
- ガバナンス
- ツール
- ナレッジマネジメント
- コンピテンシー
- 広報活動
概念的には他のOpsと同じ感じですが、文化的な雰囲気がします。
ツール
- Calendly (日程調整用)
- クラウドサイン (同意書契約用)
- Azure Video Analyzer (書き起こし用)
- Dovetail (分析用)
- Figma(プロトタイプ用)
- Miro(ワークショップ用)
Dovetail というもの始めて知りましたが、こういう感じで分析できるの楽しそうですね。
私の愛するリサーチツール「Dovetail」について語らせてください|mihozono|note
Chapter7 UXリサーチのケーススタディ
事例のラインナップ
筆者がメルペイで行ってきたUXリサーチのプロジェクト事例
- 利用上限金額の設定機能
- リブランディング直後のサービス認知や利用実態の把握
- おくる・もらう(送金サービス)
- 定額払い
- 初期設定フロー
- Weekly UXリサーチ(週次のUXリサーチ日の設定)
- リモートUXリサーチ
これまでの始め方、組み立て方、手法を踏まえて実際にはどのように行ったかが記されている。
ひとつのプロジェクトの粒度や、具体的にどのタイミングでどのようなことをしているのかが分かりやすかった。
感想
改めて、なぜUXをやる必要があるのかを考えるきっかけになった気がします。
個人的には、流行りや必要に迫られての部分もありますが、これまで一方方向だった作ることから、一歩踏み出しして使う人の意見を聞いてみて、それをもとに作る、ということで何かしら気づきや自身の成長ができるのではないかな、という期待があるからだと思い起こしました。
ちょっと思い出したつながりで、オフィスで働いていたときは「これが使いやすいか、見えやすいか」みたいな話はすぐ近くの席の人に聞きやすかったり話してたが、今はそのような細かいところは自身の感覚や判断で過ごしてしまっているのではないかと反省。
共通言語でものを作れることや、良い or 悪いの基準や感覚が揃っていることは、とても大事と思っているのでそのあたり見直しながら仕事をしたいなと思いました。