【読書メモ】ザ・ダークパターン ユーザーの心や行動をあざむくデザイン
目次・概要
- Chapter1 ダークパターンとは何か
- 1.1 消費者を惑わせるWeb サイト設計
- 1.2 ダークパターンとは何か、その定義
- 1.3 ダークパターンの世界的調査
- 1.4 ダークパターンは人の選択をどれほど歪めるか
- 1.5 国内外で高まるダークパターンへの忌避感
- 1.6 企業がダークパターンを使うリスク
- Chapter2 意思決定の科学
- 2.1 その選択は、誰が決めているのか
- 2.2 意思決定に影響を与えるマイクロコピー
- 2.3 ユーザーが行動を起こす3条件
- 2.4 ファストアンドスロー 速い思考と遅い思考
- 2.5 説得 vs. 欺瞞、操作、強制
- Chapter3 ダークパターンの種類
- 3.1 スニーキング(こっそり)
- 3.2 アージェンシー(緊急性)
- 3.3 ミスディレクション(誘導)
- 3.4 ソーシャルプルーフ(社会的証明)
- 3.5 スケアシティ(希少性)
- 3.6 オブストラクション(妨害)
- 3.7 フォースドアクション(強制)
- Chapter4 ダークパターンを防ぐために
- 4.1 組織をプレッシャーから解放する
- 4.2 ユーザーをリスクから解放する
ざっくりですが、
第1章:概要としてダークパターンとはの説明や起源について
第2章:人間の意思決定について、行動経済学を中心としたデータの紹介
第3章:ダークパターンの種類と特徴
第4章:ダークパターンを防ぐためにできる取り組み
について書かれています。
著書は 仲野 佑希 さんで、フリーランスのUXライターをされている方です。
UXライティングの教科書 もこの方の著書です。
Chapter1 ダークパターンとは何か
消費者を惑わせるWeb サイト設計
筆者がショッピングサイトで「注文手続きへ」のボタンを押した際、知らずのうちに有料のプレミアム会員に登録されていたという経験談のあとに、下記のニュースが引用されています。
2021年3月、日本経済新聞が「国内の主要ウェブサイトの6割でダークパターンが確認された」と大きく報じました。
このニュースを皮切りにメディアでもダークパターンについて取り上げられたとのことですが、サイトを作る側から見て、どこまでが「セールステクニック」で、どこからが「ダークパターン」になるか考えてみましょうという問題提起をしています。
ダークパターンとは何か、その定義
2010年にUXの専門家であるハリー・ブリグナルさんが darkpatterns.org のなかでダークパターンの概念を初めて紹介しました。
ダークパターンとは、ユーザーを騙して何かを購入させたり、登録させたりするなど、意図しないことを実行させる、Webサイトやアプリで使われているトリックのこと
ユーザーを欺くインターフェース = ダークパターンは、いくつかの種類に分けられますが、どのダークパターンもユーザー(消費者)に対して次の3つを行うように設計されているといいます。
- より多くのお金を支払わせる
- より多くの個人情報を提供させる
- より多くの時間を浪費させる
ユーザーの操作の失敗につながる「アンチパターン」と「ダークパターン」は区別するべきで、「ダークパターン」は意図的(あるいは無自覚)に設計がされているパターンを指します。
アンチパターン | ダークパターン |
---|---|
・正しく機能しない ・双方にメリットがない ・純粋なデザインの失敗 ・未熟な設計 ・基準を元に識別しやすい ・意図的ではない |
・それなりに機能する ・ビジネス側にのみメリットがある ・人間の「弱点」を突くデザイン ・慎重かつ巧妙 ・識別するのが困難 ・意図的(あるいは無自覚) |
国内外で高まるダークパターンへの忌避感
消費者保護やプライバシーに敏感な欧米では、GDPRにおいてダークパターンに対する規制を強化しています。
国内でも忌避感は高まっており、消費者センターへの問い合わせ件数増加も顕著になっています。
2022年6月から定商取引法の改正法が施行されましたが、そのような背景もあり「詐欺的な定期購入商法」への対策も強化されています。
参考:「おトクにお試しだけ」のつもりが「定期購入」に!?-「詐欺的な定期購入商法」の規制が強化された改正特定商取引法が施行されました!
企業がダークパターンを使うリスク
ダークパターンを使って売上を伸ばし、数字上はビジネスが成長するように見えても、思いもよらぬところに悪影響を及ぼしている場合があります。以下に挙げる9つのリストは、ダークパターンを使うことによって生じ得る損失やリスクの一覧です。
- カスタマーサポートへの負担増
- 返品率の増加
- SNSでの悪評の拡散・ネガティブレビュー
- 顧客のライフタイムバリューの低下
- 新規顧客獲得コストの増加
- 従業員の離職率・人材採用コストの増加
- 消費者トラブルへの発展
- 法律違反・罰則リスク
- 業界全体の信頼が損なわれる
Chapter3 ダークパターンの種類
スニーキング(こっそり)
スニーキング(こっそり)とは、ユーザーにとって重要な情報を隠したり、偽装したり、公開を遅らせたりする行為のこと。
こっそりカゴに入れる
ユーザーの同意を得ずに、勝手に商品をショッピングカートに入れられる
こっそりカゴに入れる – darkpatterns.jp より
隠れたコスト
商品の購入プロセスの最後で、予想外の料金が明らかになる
おとりの商法
ユーザーがインターフェースを操作して、特定のアクションを起こそうとすると、期待した結果とは別のことが起きる
おとり商法 – darkpatterns.jp より
この画像の例では、ポップアップ右上の「✗」ボタンを押すと、「アップグレード」が開始されユーザーの反感を招きました。
アージェンシー(緊急性)
カウントダウンタイマー
実際には時間が0になるとループするタイマー
Webサイト上での行動を操られている!? ユーザー心理に付け込む「ダークパターン」とは : ビジネスとIT活用に役立つ情報 より
期間限定メッセージ
特別セールがまもなく終了することを匂わせるが、締め切りが明記されていない
Webサイト上での行動を操られている!? ユーザー心理に付け込む「ダークパターン」とは : ビジネスとIT活用に役立つ情報 より
ミスディレクション(誘導)
コンファームシェイミング
ユーザーの感情に訴えかけて、オファーを断りづらくさせる
コンファームシェイミイング(羞恥心の植え付け) – darkpatterns.jp より
視覚的干渉
色、文字のサイズ、レイアウトなどの視覚的要素を利用して、ユーザーを特定の選択に誘導したり、あるいは遠ざけたりする
ひっかけ質問
紛らわしい言葉を使って、ユーザーを特定の選択へ誘導する
クリックベイト
Webコンテンツに扇情的なタイトルをつけて、ユーザーにリンクを踏ませる
【全15種類】その仕掛け、ユーザーの信頼を失ってない? 僕らが知っておくべきダークパターン | キャリアハック より
ソーシャルプルーフ(社会的証明)
偽のアクティビティメッセージ
アクティビティメッセージ(「現在、○○人がこのプランを検討しています」)を捏造する
Webサイト上での行動を操られている!? ユーザー心理に付け込む「ダークパターン」とは : ビジネスとIT活用に役立つ情報 より
出所不明のお客様の声
捏造したお客様の声で商品を買うように仕向ける
【全15種類】その仕掛け、ユーザーの信頼を失ってない? 僕らが知っておくべきダークパターン | キャリアハック より
スケアシティ(希少性)
在庫僅少&需要高騰メッセージ
豊富に在庫があるのに売り切れ間近に見せかけたり、売れ残り商品を人気があるかのように見せかける
【全15種類】その仕掛け、ユーザーの信頼を失ってない? 僕らが知っておくべきダークパターン | キャリアハック より
オブストラクション(妨害)
ローチーモーテル
解約が著しく難しいサービス
フォースドアクション(強制)
強制的な登録
ユーザーがコンテンツにアクセスしたり、サービスを利用しようとする過程で、アカウントの作成を強制する
【全15種類】その仕掛け、ユーザーの信頼を失ってない? 僕らが知っておくべきダークパターン | キャリアハック より
強制的な継続
サービスの無料トライアル期間が終了した際に、事前の予告や通知をすることなく、ユーザーのクレジットカードに課金・請求を行う
Chapter4 ダークパターンを防ぐために
ユーザーをリスクから解放する
ユーザーの不安を取り除く
ダークパターンがあふれるWebサイトに向かい合っているユーザーが抱える不安に対して、どのような言葉で対処していくかを説明しています。
- お金(支払い)に関する不安
- キャンセル料はかかりません
- クレジットカードは不要です
- 有料後続プランはいつでも解約できます
- 返品無料
- 30日間返金保証
- 個人情報とプライバシーの不安(データセキュリティ)
- スパムメールは贈りません
- 個人情報を第三者に提供することはありません
- 電話番号は配送に関してご連絡が必要な場合にのみ使用します
- あなたの許可なくSNSに投稿することはありません
- クレジットカード情報は安全なデータ通信によって保護されています
- 不明瞭なプロセス(時間・手間がかかり過ぎる)
- 所要時間はたった3分です
- あと2ステップで完了します
- 予約確定ボタンを押すまで請求はされません
- あと○項目で入力完了
- 通常2営業日以内に返信します
- 複雑な退会プロセス(引き止められる)
- いつでも解約できます
- ワンクリックで配信停止できます
- お好きな方法で退会できます
- 解約理由を尋ねたり、引き止めたりすることはありません
- 毎月15日までにご連絡いただければ、次回の定期配送は停止します
- 自分好みのオプションがない(融通が利かない)
- これはあとで変更できます
- 柔軟なお支払い方法から選べます
- いつでも一時休会できます
- ご契約プランは好きなときに変更できます
- 実際に利用した分のみの料金が請求されます
ユーザーの認知負荷を和らげる
コンテンツを流し読みするようなユーザーに対しても情報を正しく拾えるようにすることが重要で、その点においてUXライティングが最良のアプローチになります。
UXライティングの三原則(明快、簡潔、役に立つ)に則ってコピーを書くことで、プロダクトの使い心地とコンバージョンに大きな影響を与えられるとのことです。
1枚のスタイルガイド
組織やプロジェクトが大きくなってくると次のような問題が次第に大きくなります。
- サイトのあちこちで表記ゆれが起き、ユーザーが混乱する
- サイト全体のUIデザインから一貫性が失われ、ユーザーが快適な操作をできなくなる
- ブランドボイスとトーンが乱れ、自分たちのメッセージが意図した通りに伝わらない
- コンテンツの表現が原因で、広告の審査落ちなどプロジェクト全体に支障をきたす(信頼性の喪失)
このような事態を避け、ブランドとしての調和を取るために、デザインやライティングのルールを定めた、1枚のスタイルガイドから始めることを提案しています。
「日付の表記ルール」や「ボタンのカラーコード」など、簡単なものから始めることを勧めています。
感想
ダークパターンについて、本のタイトルを見たときに言葉としては想像はできましたが、初めて触れる内容で興味深かったです。
近頃のエシカル的な流行りの側面とGDPRなど法規制とも関わる部分なので、今後広く取り扱われるテーマになりそうだと感じます。
内容的には、UXライターの方が書いているだけあって読みやすいのと、流れ的にも最後にUXライティングやスタイルガイドの話が上がっているのが実務をやっている人に感覚が近いと思いました。
キャリアハック の記事の最後のほうにも取り上げていましたが、Netflix のエピソードも知らなかったのでおもしろかったです。
できるだけ業務内でこのような考えを取り入れていきたいですが、難しい部分(例えば「視覚的干渉」はラインが難しい)もあるので、このような考え方があるということは心に留めながら考えていきたいと思いました。